日本を降りる若者たち

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

思い返せば去年の夏、バンコクを中心に11日間タイに滞在した。物価は日本より遥かに安く学生でも十分に旅行気分を楽しめた。バンコクカオサン通りはそれはもう有名なバックパッカーのメッカ(最近は徐々にトレンドに変化が起きているらしい。) 昼間からビールを飲んでぶらぶらしても何も言われず、一旅行者として風景になじむ事が出来る。観光地を巡るよりも、街をぶらぶら散策し、屋台で飯を食い、なにもしない方が遥かに楽しいのではないかと思う。僕が再びタイに行く事が有ったら安宿を見つけてそんな風に過ごす。これまで大学時代は僕が旅行に出かける事は少なかった。なぜなら、観光地巡りに疲れるのが嫌だったから。高いお金を出して海外に行き強行日程で名所を巡る事は楽しいのか。
しかし、タイはなにもしなくてもいいんだ、と感じた場所だ。気が向いたときにでかけて疲れたら、ダラダラする。もちろん節約は重要だよ。むしろ節約すら楽しいんだ。安さのバリエーションがある。例えば食事で安さを追い求めてみれば飽きがこなくて旨さ、量で満足できる選択枝が日本とは比べられないほど有る。観光地周辺では、たまにだまそうとしてくる怪しいおっさんやぼったくりタクシーなんかも経験して人間不信になりそうになるけど、あの雑踏も排気ガスや暑さもむしろ心地よく、日本で追われていた沢山の事がすっとんだ。日本で誰もが感じている閉塞感、生き辛さ、ストレスから解放してくれるユルい空気があそこにはある。

この本はそんなタイの雰囲気に「沈没」し、日本で短期集中である程度のお金を稼ぎ、安宿に泊まり徹底的に出費を切り詰めて一年の多くをタイで何もなさずに過ごす人々を描く。筆者はそんな人々を取材し、彼らをひきこもりに模して「外こもり」と読んでいる。
一見して、彼らは海外に行く為に住み込みで働く分、引き蘢りよりはアクティブなんだけど心に抱えているものは同質ではないかと思う。タイのあの空気は開放感を与えてくれる。日本は効率化、高速化が進む一方で人間関係はぎすぎすしていくばかりだし、タイの人々のおおらかさ、適当さ、素朴さを感じると今までのこだわりがなんだったのかと思う。筆者は「外こもり」の若者達を肯定的には捉えていないようだが、彼らだけの特有の症状ではなく今日本に住む僕らが潜在的に有している症状だ。沈没するポテンシャルはみんな有している。あそこでは、もういいやってプッツンして、日本で抱えていた問題を放棄するスイッチがいつ誰に入ってもおかしくない。挫折して落ち込んで、でもこれじゃ駄目だって思って立ち向かう為のなんでもいいから心の支えが彼らには必要なのか。リフレッシュできる反面どっぷり使ってしまう可能性もある場所がバンコクなのかもしれない。

3月にアメリカへ行くけれど、タイと同じような気分で行くと面食らうのだろうな。英語全然勉強してねえ。