自分探しが止まらない

自分探しが止まらない (SB新書)

自分探しが止まらない (SB新書)

 意図せず「自分探し」について繋がりが有るトピックが最近続いてる気がする。

 自分探しといえば、海外放浪と相場が決まっている。でも、著者はポジティブシンキング、就職活動、ヨガ、ライフハック、あいのり、環境問題に関心を持つ、などなど。これらに共通して存在するイデオロギーを著者は一歩離れて分析をしている。なぜ若者はやりたい事を見つけられないのか?若者の価値観の変化を的確に指摘していると思う。

 著者は「自分探し」=自分の中にある「なにか」を見つけるという事、にはある前提がある、と言っている。つまり自分の中には未だ発揮されていない力があるが、まだ発揮されていない、という思想だ。これは現在社会にうまくとけ込んで商品化されている。どういったものがリンクしているか、この本を読んで考えると結構おもしろい。

 身近な例としては、就職活動を始めるにあたってまずやる「自己分析」。これはもう今のシューカツでは常識であって本屋に行けばずらり並んでいる。自分の適性を判断するんだろうけど、専門性ありきの理系院生としてはちょっと違和感を感じるものだった。自分の内部に存在する今の自分が気づいていない「なにか」をを追い求めていくうちに、最終的に別の人格を作り出しているような気がして嫌だった。もうこれは就職活動だから、とわりきってれば良いんだけど、無意識的にその別人格・キャラを日常に持ち込んでしまう可能性もかなりある。それって結構恐ろしい。自己分析を重視してやりたい事を見つけようとする若者のメンタリティーも分析されている。

最後に、今回紹介する本とは直接関わりはないけど取り上げとく。
30歳から34歳が受けた心の傷
 
 引きこもりの数はちょうど就職氷河期の世代で最多だそうで、就職事情と自宅警備員の発生率には相関が有りそうだ、と話題になっている。今では売り手市場と呼ばれて、自分は運良く希望の業界の会社からお声をかけていただけた。それでも、自分の周りを取り巻く環境は良くない気がする。学生時代にもやもや思い描いていた自分のビジョンが全く否定されたらどうだろうか。今よりも多くの人がそういう現実にぶつかっていた。著者は団塊ジュニア世代らしいので、この世代にかなり近い。

 苦しい時代を経験した著者は一貫して自分探し(笑)っという態度で、冷ややかに描写している。少し偏っている気もするけど、とにかく拒絶反応が止まらないのは、昨今の社会にあふれ換える消費型の救いのない上辺の方法論に対する反発なのかもしれない。

 本当の自分はまだ見ぬ何処かに有る、というニューエイジ的な思想は胡散臭さが確かに有る。

 本当の自分は、どこへいっても、何をしても見つけられるものではなく結局何をしても自分なんじゃないか。
何をするか決断する事を繰り返して、少しずつ輪郭が見えてくるものだと思う。